(借金返さない奴の所にロケットランチャー打ち込んだ事があったな……) 昔、ポーカーで大勝ちしたことが有ったが、その時の相手が金持ちの癖に金払いの悪いやつだった。 頭にきたので対戦車ロケットランチャーを、自宅に打ち込んだら泣きながら払いに来たことを思い出した。(ちょっとした挨拶だったんだがな……) 慌てふためく金持ちの顔を思い出しながらクスクスと笑っていた。 ディミトリは詐欺グループの男たちの携帯電話を取り出した。没収しておいたのだ。 これから、この携帯電話を使った遠隔装置を作りだす。 まず、ノートパソコンからバッテリーを外す。バッテリーの電源端子に線を繋ぎ少しだけ離しておく。 その線を跨ぐようにテッシュを置き、上からの圧力で線がショートするようにする。 携帯電話を垂直に立てて、不安定にさせれば出来上がり。 こうしておくと着信のバイブ機能で携帯電話が振動して倒れてしまう。 携帯電話はテッシュに倒れ込んで線をショートさせるはずだ。テッシュは発火し花火に燃え移る。 と、なるはずだ。(でも、俺はハズレを引く天才だからな……) いきなりの事態に捜査員は慌ててしまい応援を呼ぶだろう。 つまり、警察の関係者を玄関先に集結させてしまおうと言う作戦だ。 結構、荒っぽいが他の方法を思いつかなかった。(めんどくせぇな…… 全員殺ってしまうか……) 勿論、全員殺ってしまっても良い。ディミトリなら訳なく出来るだろう。だが、今はその時ではない。 小道具は色々と持ってきたが、所詮は中学生が用意できるものだ。たかが知れている。 スリングショット以外に武器は無い。これでは手間が掛かり過ぎてしまう。 なるべく穏便に脱出したかったのだ。 玄関からは相変わらずチャイムが聞こえ、同時にドアをノックする音も聞こえ始めた。 どうやら居留守を使っていると思われているらしい。チャイム音と同時に部屋の灯りを消したので当然だ。 ディミトリは窓に小細工を仕掛けた。内鍵を掛ける所に釣り糸を引っ掛けたのだ。 釣り糸を窓と窓の隙間から外に押し出しておく。外から釣り糸を引っ張れば鍵を掛けた状態に出来る。 そうすると密室状態であると勘違いしてくれるはずだ。(これで上手くいくはず…… いってくれ…………) 玄関に仕掛けた装置を電話で起動した。着信音の後にボンと音がした。やがて
自宅。 早朝に帰宅したディミトリは祖母に悟られないようにコッソリと自室に戻った。 そして、パジャマに着替えてベッドに寝転んだ。(何故、あの車が彼処にいたんだ?) 釈然としない気分で自問自答する。自分としては部屋に居る風を装っていたつもりだ。 いつもどおりに夕方のランニングを終え、自宅に戻ってから外には出かけなかった。 そして、彼らに見つからないように裏の家から通りに出た。(何もおかしな点は無いよな……) 今日一日の行動を思い返してみて不審点を考えてみた。(もう一台。監視用の車が居たのか……) だが、通りには車は居なかったはずだ。それは確認していたから間違い無い。 そして移動中も警戒を怠らなかったつもりだ。元々、何か異変を感じたらそこで中止してしまうつもりだったのだ。 これは不審車だけでは無い、警察車両の警らも警戒しているためだ。 中学生がフラフラと出歩いて良い時間でない。それを知っているので注意しているのだ。(車が居なくても人員を配置していた可能性もある……) 通りには雑居ビルもあったし、マンションなども建っている。 その中で監視されていたらディミトリには分からない。(う~ん……) 定点的な観測所を設けるのなら、車を増やした方が使い勝手が良いはずだ。 自分だったらそうする。(何らかの手段で確認する必要があるな……) ディミトリが分からない手段で監視されているとしたら問題だ。行動の自由が無くなるのを意味している。 それでは金を都合して自分の身体を探すことが難しくなるからだ。(ええい、クソッたれな連中めっ!) ディミトリは毒づいてから布団を頭まで被った。考えがまとまらないせいだ。 少しウトウトしてから学校に行くために再び着替えた。日常を演じる事で無関係を装うつもりだ。 もっとも、謎の組織の監視下にあるので意味が薄いかもしれない。 学校を普通に終えたディミトリは早速着替えた。夕方のランニングを装う為だ。 だが、途中でコースを変更して目的地を変更するつもりだった。 毎日、ランニングの最中にストレッチ体操をする公園を横切ってバスに乗車した。 ランニングコースからバス通りに出るには、公園を大回りしなければならない。 ここで不審車の視界から消えてなくなる筈だ。「ふふふっ……」 不審車に載る二人組の慌てぶりが目に浮
「ちょっと、待てよ……」「なんで、ソイツが来るんだ……」「何で、俺の部屋を知ってるんだよ……」 ディミトリの異常性を知っている大串たちは涙目だ。彼らの拠り所である男の強さとは次元が違うからだ。「俺は何でも知ってるよ……」 先ほどとは打って変わったように静かに返事した。「まあ、大人しく座っていれば、今回は目玉は抉らないよ……」 そう言うとニッコリと笑った。「……」 ディミトリは彼らを無視して部屋を横切った、そして、窓にから外を双眼鏡で覗き始めた。 担いできたディバッグに入っているのは勉強道具では無い。 双眼鏡や着替えなどを持ってきているのだ。「アイツは何やってるんだ?」「覗き?」「近所にお姉ちゃんが居る家なんかねぇよ……」「じゃあ、何やってんだよ……」「関わりたいのか? おまえ……」「……」「……」 大串たちが何かヒソヒソ話をしているのを無視して監視を続けた。彼らがディミトリの事をどう思うが知った事では無いからだ。 そして十五分もしない内に、件の不審車がやってくるのを見ていた。(やはり、そう来るか……) 黒い不審車はブロック向こうの通りに停まっていた。 これでディミトリは確信した。(尾行じゃないな……) 黒い不審車を睨みつけながら、これまでの事を思い返していた。 ディミトリの顔がみるみる内に歪んでいく。(追跡されているのかっ!) ディミトリは不審車の行動の謎が何となく分かった。裏を掻いたつもりだったが、追跡装置があれば意味がない。 日中しか監視しないのは行動観察のためだ。居場所は分かっているので夜間は見張る必要が無かったからだ。 先日の詐欺グループのガサ入れも彼らの入れ知恵であろう。「クソッたれ共め…… 何を考えていやがる……」 思わずディミトリが呟いた。「?」「?」「なんだよアレ……」「お前が聞いてみろよ」「いやいや、大串を訪ねてきたんだろ」「ざけんなよ。 俺は知らんよ……」「俺も無理っす……」 そんなディミトリの呟きを大串たちは不思議そうに見ていた。 いきなりやってきて何かを話するわけでもなく、双眼鏡で外を覗いてイキナリ怒り出す同級生だ。 正直、関わりたくないタイプだと全員が思っていた。(まあ、半分予想はしてた、仕組みがわかればどうってことは無いさ……) ディミトリは背負って
自宅。 家に帰ったディミトリはティーシャツを脱ぎ捨てた。アルミ箔を貼っているので着心地が最悪なのだ。 そして、自室の窓からいつも不審車が停車しているあたりを見張っていた。 大串の家を出た後に、近くのショッピングセンターで見張っていたが彼らは現れなかった。 今回はティーシャツを脱ぎ捨てて三十分程で彼らは現れたのだ。「つまり、上半身の何処かに有るのか……」 追跡装置の在り処が絞られてきた。ディミトリは祖母の部屋から姿見を借りてきて映してみた。 事故に有った時の傷跡は全身に付いている。結構な数があり、手術跡だらけでよく分からなかった。 昏睡状態になるような怪我だったので仕方が無い。「参ったな……」 手術跡を触ってみた。デコボコとした感触があるが、傷の跡なのか追跡装置が埋まっているのか不明だ。 ある程度には医学の知識があると言っても、傷病兵に対する簡単な血止め程度なのだ。(しかし、どうやって埋め込んだんだ?) 身体に何かしらの装置を埋め込むのは、普通に寝ているときでは無理だ。 痛みで目が覚めてしまうし、それだったらディミトリは覚えているはずだからだ。 作戦の時に犬に仕掛けたことがあるが、小型と言っても結構大きかった。 身体に埋め込むのなら大掛かりな手術が必要なはずだ。(普通に考えて埋め込んだタイミングはあの時だけだよな……) ならば、これはディミトリが昏睡状態の時に施術された事になる。 それが出来るタイミングはあの時以外に無い。(あのヤブ医者め……) 本人が知らない間に何かを体内に埋め込むことなど出来ない。やれるとしたら自分が入院していたタイミングだけだ。 祖母の話ではタダヤスは病弱だが、入院などしたためしが無かったそうだ。(つまり、ヤブ医者は奴らの仲間ということだ) 親身に相談に乗ってくれていたのは、追跡装置が無事かどうかが気に成っていたのであろう。 それとバッテリーの問題もある。ある程度の間隔で充電しないと動かなくなるはずだからだ。 だから、定期的に検査の為に病院に通わされるのであろう。 ディミトリには確信していた。(さて、どうする……) 少し手荒い方法で情報を引き出そうと考えていた。 その前に身体に埋められた追跡装置だ。取り出させる方法を考えねばならなかった。(幸い…… 俺は方法を良く知ってるからな……)
「な、何してんのよっ! アンタ頭おかしいんじゃないの!?」 甲高い声でオネェ言葉を叫び出したプリン金髪。四つん這いで逃げ出し始めたのだ。 ディミトリは笑いを堪えるのに苦労した。 うずくまったまままったく動かないモヒカン風金髪。若干震えていたような気がする。 絶叫して逃走しはじめたプリン金髪を、全速力で追いかけて後ろから蹴ってやった。 すると、ガリガリのプリン金髪は前のめりで転倒した。 その倒れたプリン金髪のボディに蹴りを入れ続けた。相手が反撃出来ないようにする為だ。 最後には顔面にサッカーボールキックをした。助走をつけて蹴るのだ。 これは強烈だった。そんな事をする奴などいないからだ。「うぅぅぅ……」 うずくまったまま動かなくなったプリン金髪。 肩で息をしながらモヒカン風金髪の方に目を向けた。 なんと、さっきまでうずくまっていたモヒカン風金髪がいないではないか。 強烈なフックをお見舞いしたはずだから歩くのもやっとなはずだ。(ええーーー。 やられている仲間を放置して逃げるのかよ……) ディミトリは呆れ返ってしまった。姿形も無い所を見ると逃げ足はピカイチのようだ。「ヘタレどもめ……」 ディミトリは吐き捨てるように呟いた。理由はどうあれ仲間を見捨てるやつは最低だと思っているからだ。 これは兵隊時代から身についている習性だ。「で? 何の用なんだ??」 ディミトリはプリン金髪に向き直して聞いた。 彼は俯いたままだった。泣いているのかも知れない。「な、仲間をボコったって聞いたんで……」「仲間?」 彼らの言う『ボコる』とは喧嘩に勝つ事らしいが、喧嘩なんぞに興味のないディミトリには不明な単語だ。「ええ……」「……?」 ディミトリは何のことだか分からなかった。「何のことだ?」「?」 もう一度聞き直すとプリン金髪の方が当惑してしまったようだ。「前にダチが病院から出てきたオタク小僧にやられたと聞いたもんですから……」 青い縞のシャツと目立たない灰色ズボン。選んだわけではない。コレしかタダヤスは持ってなかったのだ。 ディミトリは溜息をついた。オタク小僧と言われても仕方のないセンスだ。 タダヤスは生まれた時からカツアゲされる宿命だったのだろう。「ああ…… あの金髪の弱っちい奴の事か?」 ここでやっと思い出した。ボコッた
病院の診察室。 定期検診に赴いていたディミトリは診察室に居た。「その後、頭痛は起きますか?」 問診している相手は鏑木医師だ。 普段どおりの温厚そうな表情を見せている。「前の時のような酷い頭痛は無いです」「そうですか、それは良かったですね」「はい、ありがとうございます」「恐らくは脳の腫れが引いてきているのだと思いますよ……」 鏑木医師はカルテに何かを書き込んでいた。 その間にディミトリは診察室の中を見回していた。追跡装置に充電する何かが有るはずだからだ。 しかし、これと言って怪しげなものは見つからない。「先生に処方していただいた薬のお陰だと思います」「そうですか、それは良かったですね……」 褒められた鏑木医師はニコニコとしながら答えた。「それで…… 事故にあう前の事は思い出しましたか?」「それは無いですね……」「そうですか……」「……」「まあ、ゆっくりと思い出していきましょう」「はい……」 鏑木医師はにこやかに答えていた。 ディミトリもそれに合わせて模範的な回答を心がけていた。中身はともかく、表面上は優等生を演じることにしているのだ。 まだ、追跡装置の存在を知っていることを悟られてはならないからだ。「背中にシコリみたいな感じが有るのですが?」「そうなんですか?」「はい」「ちょっと見てみましょう」「お願いします」 鏑木医師はディミトリの上半身を脱がせて、背中に回って手術跡を触診しはじめた。 ディミトリはそっと振り向いては先生の表情を注視していた。「どの辺ですか?」「手術の縫い目のあたりですね……」「別段、違和感は無いようですが……」「シコリがあるなと思う時に携帯電話の受信状況が悪くなるんですよ……」「そうですか…… 何とも無いけどなあ……」「勘違いだと思いますよ。 縫っているので皮膚が引っ張られるのを感じ取っていると思います」 一応カマを掛けてみた。『受信状況が悪くなる』で何か反応があるか注意してみたのだ。 だが、鏑木医師は顔色ひとつ変えずに触診をしている。(ひょっとしたら違う医者が埋め込んだという可能性もあるな……) 表情を変えない鏑木医師は違うんじゃないかと思い始めた。「そう言えば先生って独身でいらっしゃるんですか?」「いや、結婚はしているよ」「へぇ、そうは見えないです」「珍し
好みの美人看護師に点滴の準備をされながら点滴の袋を見ていた。透明な液体で満ちている。 薬剤は点滴でゆっくりと入れる。作用がきついので時間がかかるのだと鏑木医師は話していた。 その際には腕に黒いバンドが締められる。締められるというより巻かれるという表現が正しい。 血圧を測る時に使うバンドに似てるがちょっと違う印象を受けていた。 だが、ディミトリは点滴の液が滴り落ちるのを見ながら気がついた。(そうか……) どうやって追跡装置を充電していたのか謎だった。だが、その方法が閃いたのだ。『電磁波充電』 電磁波があれば電流を生み出せるのだ。 コイルの中心を通過する磁力線が存在すると、そのコイルに誘導電流が流れる。 これをバッテリーに流し込んでやれば充電が出来るようになる。 こうすれば体内に有っても外からの充電が可能だ。電源コードは繋げる必要がない。 つまり、腕に巻いている黒いバンドは電磁波を起こさせているものに違いない。 点滴で腕に何か巻くなど経験したことが無い。せいぜい言って針がずれないようにテープを巻くぐらいだ。 処置をされる度に感じていた違和感はこれだったのだ。 鏑木医師が定期的に診察に来るように言うわけだ。ディミトリでは無く電源の残量が心配だったのだ。(間違いないな……) もはや確信に近いものがあった。(腐れゴミ医者め……) 追跡装置が腕に有るのなら、背中の違和感など勘違いだと言っているのが分かる。 彼はそこに何も無いことを知っているからだ。 信頼してただけに結果が非常に残念だった。怨嗟の焔が燃え上がるようだ。(さて、どうしてやろうか……) とりあえずは腕の何処にあるかを確認しなければと考えた。 それは自宅でも出来る。小型の超音波診断装置があるからだ。 本当は壁にある隠し扉を見つけるために買ったのだが、本来の使い方が出来るとは思わなかった。 襲撃の時には警察がやってきた事も有り使う暇が無かった。(最初からやっておけば良かったな……) 病院に来るまで買ったことを忘れていたらしい。 もっとも、背中を隈なく探すには一人では無理な話だった。小型なので見える範囲が狭いのだ。(以前に使った時には腹に撃ち込まれた弾丸を探す時だったっけ……) 衛生兵では無いので大雑把な位置が分からないとナイフで取り出せない。 金属は反応
自宅。 ディミトリは病院の事務室に侵入して、職員名簿から鏑木医師の住所を手に入れていた。 侵入と言っても誰もいない瞬間を見計らって室内に入っただけだ。 何故か不審がられなかったのは謎だが、業者か何かと間違えられたのだろうと考えることにした。 自宅はディミトリが住んでる市内であった。確かデカイ家がたくさんある地区だ。 帰宅したディミトリは携帯型超音波診断機を作動させた。超音波端末にローションを塗って自分の腕に当ててみる。 黒いベルトを巻いていた付近を真っ先に調べた。すると左腕の上腕に何かが有るらしいのは分かった。(こんな玩具みたいなのでも役に立つんだな……) 画像部分に白くて四角い物が映されている。金属なので超音波を全反射してしまうので真っ白なのだ。 位置関係を考えると腕の裏側に当たる部位だ。(確かに日本ってのは先進国なんだな) 妙なところで感心してしまった。日本の民生品は凄いものだと認識を新たにしたのだった。(此処じゃ目視では分からない訳だな) 確かに腕の裏側など見る機会はそうそうには無い。むしろ無関心なのが普通だろう。 そこに目をつけて追跡装置を埋め込んであるのだ。(こういう事に手慣れている組織だな……) 自分が相手しているのは諜報機関である可能性が出てきた。 警察であればこんな事はやらない。彼らは逮捕して威嚇して黙らせるのを得意としている。 諜報機関は対象の詳細な情報を得るのが目的だ。泳がせる為に追跡装置などを使いたがる。 そして目立つのを嫌がる。事件化するぐらいなら対象を抹殺するのも手口だ。 これは万国共通の習性なのだろう。 腕の後は身体のアチコチを超音波診断装置で見てみた。 見た感じでは腕以外に反応があった部位は無い。(とりあえずは此処までにしよう…… ヌルヌルして気持ち悪いや……) 全身がローションまみれに成ってしまったのでシャワーを浴びることにする。(ド貧乏国家の市民が先進国に行きたがる訳だな……) シャワーを浴びながらそんな事を考えていた。 先進国ではネット通販で色々な物が購入できるので便利だ。 レントゲン撮影なら確実だが、個人で手に入る代物では無いので諦めた。 大体の場所は分かったので、再び鏡に写して場所を探す。 すると薄っすらと細い線が見受けられた。ここが追跡装置が埋め込まれた手術跡に違
これはロシア軍の初年訓練でさんざんやらされた訓練の一種だ。もっとも、実際の戦場で役に立ったこと無かった。 接近する時には銃弾を雨のように撒き散らして相手を殲滅するからだ。ドンッ ディミトリは男の腹を目掛けて引き金を引く。そのままの体制でピアスの男・売人・半グレの子分と撃ち続けた。 突然の展開に驚いた彼らは、身を隠すなどという事をしなかった。射撃の的のように簡単だった。 彼らは銃撃戦という物の経験が無いのか、その場に棒立ちのままだったのだ。「……」 工場の中は彼らのうめき声で満たされている。ディミトリは無言のままピアスの男に近づき頭に銃弾を撃ち込んだ。 短髪男の子分も同様に射殺した。 彼らはディミトリが欲しい情報を持っていない。つまり、不要だから処分したのだ。下手に生かしておいて復讐に来られたら面倒だとの考えからだ。「ま、待て…… た、助けてくれ……」 売人の男が哀れな声を絞り出しながら嘆願してきた。「何故、俺を罠に嵌めたんだ?」 ディミトリは売人に尋ねた。「その男に頼まれたからだ……」 売人は短髪男を指差しながら答えた。「そうか……」 ディミトリは売人を射殺した。もう、用は無い。 彼はそのまま短髪男の所にやって来た。「お前は誰の使いで来たんだ?」「うるせぇっ!」「そうか……」 ディミトリは短髪男を射殺した。聞きたい事は山程あるが、ディミトリは治療を必要としている。 生かしておく理由も義理も無い。何より時間が無いので始末したのだった。 すると部屋の中に異臭が漂い始めた。「ん?」 見ると女の足元に水たまりが出来つつ有った。失禁したのだ。それはそうだろう彼女の人生で、殺人を目撃することなど無かったからだ。 ところが、目の前にいる男は躊躇すること無く、銃弾を人間に送り込んでいる。しかも、助命を懇願する相手にもだ。「お前もコイツラの仲間か?」 彼女は盛んに首を振った。彼女の目は一杯に開かれている。恐らく相手に対する恐怖がそうさせているのだろう。「た、頼まれただけです……」「誰に?」「大串くんです……」「本当か? 考えて答えろよ。 お前は死ぬかどうかの瀬戸際にいるんだ……」「誓って本当です……」「ふん……」 きっと、嘘だろう。女相手の尋問は色々と楽しいが今はやらない事にした。時間が惜しい。 出血の度合
廃工場。 二階の暗闇の中から現れたのは暴力団員風の男だ。 その後ろから一人の男が付いてきている。髪の毛を茶髪にして、耳にはピアスを付けていた。子分だろう。 ディミトリが睨み付ける中、短髪男は子分を従えて悠然と階段を降りてきた。「シカトしてんじゃあねぇよっ!」 自分を無視された売人は大声を出してきた。だが、ディミトリは短髪男を睨みつけたままだ。 本能が『要警戒』と告げているのだ。「まあまあ、コイツが若森って奴か?」 短髪男は階段を降りながら声を掛けてきた。何故かニヤついている。自分が優位に立っていると、思い込んでいる男にありがちな反応だ。恐らく懐に何かを持っているのだろう。 そして男はディミトリの顔を知っているようだった。(やはりか……) 名前も知っているという事は、中国の連中の仲間かもしれないと考えた。「大人しくコッチの質問に答えれば痛い目に遭わなくて済むよ……」 短髪男は懐からベレッタを取り出した。イタリア製の優秀な拳銃だ。 余裕が有ったはずだった。(ベレッタか…… 装弾数は十五発だっけ?) ディミトリが銃を見ていると、短髪男は遊底を引いて薬室に弾を送り込んだ。 恐らく、ディミトリが銃を見るのを珍しがっていると勘違いしたのであろう。玩具を手に入れた子供が粋がるようなものだ。「お前が知っている、お宝の有りかを教えて欲しいんだよ」「お宝? 俺の秘蔵のエロ本か??」「舐めんじゃねぇっ!」 馬鹿にされたと思った短髪男は床に向かって引き金を引いた。銃の発射音が室内に響く。空薬莢が床に転がる音が続いた。 急な事に女はビックリして悲鳴を上げてしまっている。「ちょっと、私関係無いんだけどっ!」 女が咄嗟に逃げようとして走り出した。そこを短髪男が発砲してしまった。引き金に指を掛けたままだったのだ。 素人が銃を持った時によくやる失敗だ。 女が急に動いたのでビックリして銃を向けてしまい。その際に引き金に力が加わったのだ。「ぐあっ!」 だが、運の悪い事に狙いが逸れてディミトリに命中してしまった。脇腹の辺りにだ。 万が一の事を考えて防弾チョックを着ていた。しかし、防弾用素材と素材の隙間にある、縫い目を弾丸は通過したようだ。 ディミトリが昔使っていた奴はそうは成らなかった。普通の防弾チョッキには縫い目など無い。 さすが中華製だ。
廃工場。 田口の車から一人で降りて工場の方に歩いていく。午前中と違うのは工場の敷地に入るガードは開けられているぐらいだ。 工場の正面にあるシャッターの脇に普通のドアがある。 ディミトリはノックすること無くドアノブを回して中に入っていった。それと同時にポケットに入っているレーザーポインターのスイッチも入れた。 工場の入口から中に入り、歩きだして五秒ほどで周囲の視線に気付いた。刺すような視線。猛獣が獲物を見定めるかのような視線という類のモノだ。(見張られているな……) 殺意の視線。それは、かつて戦場でスナイパーに狙われた時の感覚に似ている。ねっとりとした感触が戦場を思い出させた。(少なくとも四人はいるかな……) ディミトリに持つ全て感覚センサーがそう告げている。そして、全員を始末せよと言っているのだ。(良いねぇ……) まるで『建物全体が捕食者』みたいな感覚。ディミトリの神経が研ぎ澄まされていく。 工場の真ん中あたりに机が一つだけ置かれており。その前に男が一人座っていた。 コイツが売人なのであろう。視線が泳いでいる癖に眼付がやたらと鋭かった。「よお~……」 売人は陽気を装って声を掛けてきた。まるで古くからの知り合いのようだった。「金なら持ってきた。 女はどこだ?」 ディミトリは懐から金の入っている封筒を見せた。二百万入っているので結構分厚い。 男は工場の奥をチラリと見た。ディミトリが一緒に釣られて見ると金髪の女と顔中にピアスを付けた男が居る。 女の腕を捕まえているところを見るとコイツも仲間なのだろう。「女と引き換えだ……」 売人は奥のピアスだらけの男を手招きした。男は女を連れてやってくる。 この金髪女がカラオケ屋で擦れ違った女の子なのだろう。興味が無いので覚えてなどいない。「ほらよ……」 ピアスの男がぶっきら棒に女を離すと、ディミトリが持っている封筒を受け取った。 そのまま、封筒を売人に渡すと、売人は中身を確認し始めた。ピアスの男は売人には目もくれずにディミトリを睨みつけている。 女はディミトリの後ろで大人しく待っていた。 金を数え終わった売人はニヤリと笑った。全額有ったようだ。「ああ、金の確認は終わった……」「そうかい。 じゃあ、女は連れて行くよ」 それを聞いたディミトリは女を連れて帰ろうとした。「まあ、ちょ
大串の自宅前。 武器を捨てられてしまったディミトリは気を取り直して大串の家に向かった。(クソッ! せめて拳銃だけでも無事だったら良かったんだが……) 他にも減音器も捨てられていた。玩具の銃は壁に飾ってあるので、それと一緒に飾っておけば良かったと後悔している。 銃弾は別に保管していたので無事だ。筒状のパイプでも有れば単発式の発射装置が作れるが、工作している暇が無かった。 単純に筒に弾を詰めて、釘か何かで雷管をひっぱたけば良さそうだがそうは簡単にはいかない。 銃弾を固定してやらないと暴発して自身も怪我をするからだ。最低でも薬室を作ってやらないと駄目なのだ。 手持ちの武器らしい武器は自作のスタンガンとスリングショットぐらいだ。これでは心許ない。(致命傷は無理でも牽制には使える程度だな……) 無くなった物を惜しんでも手元には帰ってこない。それより目の前の問題をどうするかの方が大事だ。 しかし、ディミトリの少なくない経験から、ケチが付いた作戦は中止するべきとの教訓もある。(確かに中断するべきだが……) 何よりディミトリには気になる点があったのだ。(何故、俺を指名したんだ?) 取引自体がディミトリを誘き寄せる罠であるのは分かった。だが、何故面倒な真似をしてまで罠に嵌めるのかが謎だ。 それは罠を張った連中を確かめる必要を示唆している。(あの連中が罠なんて面倒な手間をかけるとは思えないんだがな……) あの連中とは鏑木医師を殺害した連中だ。中国語を話していたと思うので中国系と思っていた。 不思議なことに連中は、日数が経過しているにも関わらず手を出してこない。 鏑木医師の事を知っているのなら、ディミトリの事も知っているはずだ。 自分たちの存在が知られたと判明した時点で、自分なら対象の身柄を押さえる。逃げられてしまったら困るからだ。 だが、彼らはそうはしない。銃を持って襲撃するような連中だ。荒っぽい仕事には慣れているはずなのにだ。 これは何を意味するのか? ディミトリには四六時中見張りに付いている連中がいる。その彼らの前で仕事を嫌がっていると捉えていた。 そして、今回の連中は面倒な罠を用意している。これは自分を見張っている連中とも違う事を示唆しているはず。(つまり、今回の罠を張った連中は俺を監視している連中とも、鏑木医師を殺害した連中と
翌日。 ディミトリは祖母に具合が悪いので、病院に寄ってから学校に行くと伝えた。 心配して付いてくると言い張る彼女を説得して、一人で出掛けたディミトリは家電量販店に居た。 ここで小道具の材料を調達するためだ。今回はどう考えても罠にハマりに行くのだ。下準備無しで乗り込むほど自信家では無い。 彼が購入したのはレーザーポインターだ。それと玩具のリモコンも購入した。このリモコンでスイッチを操作するのだ。 レーザーポインターは名前の通りレーザーの強烈な光でポイントを示す物だ。普通に使えば便利な道具だが、カメラにとっては脅威となる代物だ。 レーザーポインターをカメラのレンズに向けて照射する。すると、カメラの中にある電子素子(LCD)は強烈な光で飽和してしまう。つまり、映像をまともに作れなくなってしまうのだ。 これは空き巣や銀行強盗などの時に、防犯カメラを無効にさせる為に使われる手口だ。本格的なやつは赤外線レーザーを使う。カメラに付いている電子素子(LCD)が早く飽和するからだ。 目的のものを入手したディミトリは、そのまま例の廃工場に向かった。前日に開けておいた裏口を通り、カメラが設置されている場所までやって来た。 そして、床に積もった埃に異常が無いのを確かめると、今度はカメラがレーザーポインターで狙い易い位置にやってくる。そこには埃だらけの元資材が積み上げられていた。 手のひらに入る程度のレーザーポインターなので隠すのは簡単だった。(よし、仕掛けは出来た……) ディミトリはレーザーポインターをダンボールの影に隠して学校へと向かった。どうせ使い捨てなので見てくれは気にしていない。 道具は役に立ってこそ意味があるとディミトリは考えていた。 午後から登校したディミトリは何事もなく過ごした。そして、下校時間になると大串の方から声を掛けられた。 大串は時間をずらされて焦っているようだ。そして、ディミトリが受け渡し場所に下見に行った事には気が付いてないようだった。「今日はちゃんと来いよ」「ああ、今夜は何時頃行けば良いんだ?」「夜の七時に俺の家に来てくれれば田口の兄ちゃんが車で送ってくれるってよ」 田口というのは子分の一人だ。クラスメートなのだがディミトリは初めて名前を聞いた気がしていた。「そうか、分かった……」 ディミトリは素っ気無く返事をした。
ディミトリは部屋の中央に進み出てみた。死角になる場所が有るかどうかをチェックする為だ。 するとシャッターの脇から二階に伸びる階段に気が付いた。(二階が有るのか……) そのまま部屋の真ん中に立って見回していると、ある物に気がついた。二階にカメラが取り付けられている。 角度的にも部屋を全て網羅しているみたいだ。(ほほぅ……) 階段を上がって傍に寄って見てみると真新しいカメラだった。まだ、設置されたばかりなのだろう。(まだ稼働はしてないみたいだな……) カメラに電源らしきものは入っていないようだ。触ってみても冷たいままなのだ。 ディミトリはカメラの側面に書いてあるメーカーの型番を控えた。家に帰ってから性能を調べる為だ。(俺を撮影する気か?) 防犯の為なら外に向けて取り付けるし、電源は入れっぱなしにするだろう。だが、室内の中央に向けて設置してある。 この工場に呼び出した人物を撮影するためだ。そして、それはディミトリである事は明白だ。(もしくは狙撃の補佐用……) 場所などのマーキングが済んでいれば狙撃の射角などが容易になる。 重要な対象を確実に仕留めるために行う狙撃方法だ。(狙撃兵か……) ディミトリはとある戦場の前線で一緒になった狙撃兵を思い出した。 ある時、狙撃兵が何かを目標に照準して撃っていた。(休憩中なのに仕事熱心な奴だな……) 仕事熱心な狙撃兵にディミトリが質問した。『何を狙っているんだ?』『空き缶を狙っている』 彼はそう答えた。 ディミトリが見ると百メートル程先に空き缶が並べられていた。『……』 もう少しまともな物を狙えば良いのにとディミトリは思っていた。 彼は狙いを付けた物を外さないからであった。『今度の狙撃大会で優勝して後方任務にしてもらうんだよ』 そんなディミトリの思惑を感じ取ったのか狙撃兵が話を続けてきた。 彼は狙撃大会に出場して優勝するのを目標としているようだ。技量優秀な者は後方任務で温存してもらえる。宣伝に使えるからであった。『なら、あの野良犬を的にすれば良いんじゃないか?』 静止した的と動いている的では難易度に違いが出てしまう。練習をするのなら難しい方が技量向上が望めるはずだからだ。 そう思って彼に提案してみたのだ。『それは駄目だ……』 ディミトリの提案は、にべもなく断られてし
廃工場。 ディミトリは背中のバックから暗視装置を取り出した。 鏑木医師の所で収穫した物だ。使い勝手の確認も兼ねて持ってきたのだ。 バックの中身は他にガン雑誌も入れてある。万が一の時にはミリタリーマニアを装う為だ。 ディミトリは暗視装置を頭に付けて電源を入れてみる。 収奪した後に一度だけ試してみたが、昼間だったせいなのかピンと来なかったのだ。 そして、思っていたより鮮明に見えるので驚いてしまった。(最新型なだけ有って建物内の様子が鮮明に見えるな……) 兵隊時代に使っていたものは、ロシア製の重くて使い勝手が悪い物だった。それと比べると雲泥の差がある。 手袋をした自分の手を映しながら握ったり広げたりしてみた。 ロシア製の物だったら真ん中が明るくて端っこが暗くなってしまう。ところが、使っている中華製の奴は全体が均一に明るいのだ。もっとも、中身の日本製の部品で実現出来ているのをディミトリは知らない。(ふむ…… 時代の進む速度が凄いもんだな……) とりあえずは、取り残されないように気を付けないと、中身が三十五歳のディミトリは思ったのだった。(さて、人の気配はしないし奥に進んでみるとするか) 気を取り直したディミトリは足音に気を付けながら進んでいった。工場の中は耳が痛くなるような静寂に包まれている。 聞こえるのはディミトリの息遣いだけなのだ。 裏側から入ったからなのか廊下には小部屋が並んでいた。 元は工場だったので様々な作業を部屋ごとに行っていたのかもしれない。(まあ、良くある配置だな……) その中の一室には錆びたバーベキューコンロが部屋の中央にあった。結構、使われていたのだろう。炭などが残ったままだ。 脇には調味料たちが無造作に置かれている。さすがに今はもう使え無さそうだとディミトリは思った。(浮浪者が入り込んで生活してたっぽいな……) 部屋の隅に有る薄汚れた布団を見ながら考えた。そこには元の住人が捨てていったらしい衣類などが積まれている。 だが、布団に薄っすらと掛かっている埃の具合から見て、長らく使用されて居ないものと判断出来た。 その隣の広めの部屋は焦げ跡がアチコチ付いている。 空き缶とかも落ちているので、DQN達に花火でもされた跡であろうと推測した。(室内で花火って何を考えていたら出来るんだ……) 外でやると目立ち過
「ははは、そのうちにな」「ああっ!」 ディミトリは彼から不要になったモデルガンの空き箱を調達したのだった。その空き箱に分解した武器をしまってある。 こうしておけば気付かれること無く秘匿出来ると考えていたのだ。(うっかり触って暴発でもしたら怪我させてしまう……) 祖母が本物と玩具の違いを、理解できるとは考えにくいが万が一の事を考えたのだった。(まあ、組み立ては一分も有れば余裕で出来るし) 咄嗟の事態に対処出来ないが、武器を剥き出しで持っているよりは安全だろうと考えたのだった。 夕方になり早めの夕食を済ませたディミトリは、ランニングに行くと言って出掛けた。行き先は現金受け渡し場所の廃工場だ。 地図によると自転車でも一時間はかかる。早めに下見を行っておくことにしたのだ。 廃工場に到着したディミトリは道路を挟んで観察を始めた。工場はフェンスに周りを囲まれている。高さは二メートル程。 正門の扉は閉まっていた。工場自体は町工場を少しだけ大きくしたような印象だ。さほど大きくは無い。「あれか……」 ディミトリは場内を単眼鏡で中を観察し始めた。いくら無人だろうと思っても、防犯カメラくらいはあるだろうと踏んでいた。 しかし、それらしきものは無かった。それでも正門から入っていくのは止めにした。 まずは、潜入して中の様子を頭にいれる方が良いと判断したのだ。 道路の反対側に面した建物の窓から入ることにした。中を覗き人の気配が無い事を再び確認したディミトリは、閉まっているのに気が付いた。(くっそ…… ガムテープも無いしどうしよう……) 防音の為にガムテープを窓に貼り付けてガラスを割る手法がある。音もしないしガラスが飛び散らないので便利なのだ。 ディミトリは他の入り口は無いかと付近を見回した。(ん? あれが使えるかも……) ディミトリの目線の先に有ったのは制汗スプレーだ。近くに女性物のポーチが有るので誰かが落とした物なのだろうと考えた。 振ってみると少しだけ音がする。埃にまみれて古いようだが中身がまだあるようだ。(よしよし……) スプレー缶のガスはブタン・プロパンなどを主成分とした液化した可燃性のLPGガスが多い。 ディミトリは窓の鍵が有る部分に、スプレーを噴射したままライターで火を着けた。スプレーのガスで出来た炎は窓ガラスをメラメラと炙った。
「要するに大串のフリをして、売人に金を渡せって事か?」「ああ」「結構な金額になるだろう」「ああ、金なら用意する……」「……」「二百万程度だ。 俺の小遣いでどうにでも出来る」 ディミトリは自分の境遇が馬鹿らしくなって来るのを感じていた。二百万程度と言い切る中学生がいるのに、こちらは小遣いをやりくりしながら凌いでいるのだ。「タダじゃやらないぞ?」「十万くらいならお前にやるよ」 ディミトリは目を剥いてしまった。どこの国でも金持ちのボンボンは価値観が違うものだ。 まるで違う世界に生きているようなのだ。 それでも、ディミトリは引き受けるつもりだ。(そうか…… その売人をどうにかすれば、二百万が手に入るのか……) ディミトリは密かな企みを思いついていたのだ。 薬には興味無いが、金には大いに関心がある。何故なら渡航費用の一部に出来る。「金の受け渡し場所はどこだ?」 大串は川沿いにある倉庫を言ってきた。使っていた会社が潰れて無人なのだそうだ。 ディミトリはスマートフォンで地図アプリを呼び出して場所の確認をしてみた。周りに人家は無く、中小の工場が多い場所だ。 きっと、夜間には無人になっている事だろう。「それで金の渡しはいつやるんだ?」「今夜だ」 随分といきなりの予定でディミトリは面食らってしまった。「それは駄目だ。 俺には用がある」「え?」「塾が有るんだからしょうがないだろ」 もちろん嘘だ。ディミトリは受け渡し場所の下見に行くつもりなのだ。 行き当りばったりで実行しても、上手くいかないのは知っているつもりだ。これまでにも散々痛い目に遭っている。「金額が大きいから引き出しに時間が掛かると言えば良いだろ?」「ああ、分かった……」 今度は武器も有るし下準備の時間も有る。上手く行きそうだった。 大串との会話を終えたディミトリは教室に戻ってきた。大串たちはディミトリが代役を引き受けたので安心したようだ。 何度も礼を言ってきた。(乱暴者を装ってもヤクザ相手はキツイって事か……) そんな事を考えながら教室に入っていく。するとクラスメートの田島人志が話しかけてきた。「よう、まだモデルガンの空き箱探してる?」「いや、飾りたかっただけだから足りているよ」「いつでも言ってくれ、新しい奴は取ってあるからさ」「ああ、分かったよ。 あり